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東京高等裁判所 昭和51年(ネ)11号 判決 1977年5月18日

控訴人

関東飼料販売株式会社承継人

兼松関東農産株式会社

右代表者

多田二郎

右訴訟代理人

大林清春

外二名

被控訴人

株式会社川田商会

右代表者

川田和生

右訴訟代理人

山根晃

主文

原判決を次のとおり変更する。

被控訴人の請求を棄却する。

控訴人の昭和四三年七月四日金銭消費貸借契約に基く株式会社千葉興業銀行に対する元利金債務一五一四万四五六九円につき、被控訴人が右銀行に昭和四八年三月二三日右金額を弁済したことを原因とする控訴人の被控訴人に対する求償債務は存在しないことを確認する

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決中控訴人敗訴の部分を取消す。右取消部分にかかる被控訴人の請求を棄却する。控訴人の昭和四三年七月四日金銭消費貸借契約に基く株式会社千葉興業銀行に対する元利金債務一五一四万四五六九円につき、被控訴人が右銀行に昭和四八年三月二三日右金額を弁済したことを原因とする控訴人の被控訴人に対する求償債務は存在しないことを確認する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠の提出、援用、認否は次のとおり訂正附加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

原判決四枚目裏九行目に「一三四〇万円」とある次に「及びこれに対する弁済後の昭和四八年三月二四日から支払済みに至るまで」を加え、同一二行目に「一、ないし」とあるのを「一項中、被控訴人が浜田安男より昭和四五年八月二六日本件不動産につき同月二一日売買を原因とする所有権移転登記を受けたこと、二、」と訂正する。

控訴代理人は次のとおり述べた。

一1(一) 浜田安男(以下浜田という。)は被控訴人との間で本件不動産を昭和四五年九月二一日までに買戻す旨約定して譲渡担保として譲渡し、同年八月二一日被控訴人から一五〇〇万円を借受けた。右買戻期限の到来した時点では、本件不動産上には株式会社千葉興業銀行(以下千葉興銀という。)の被担保債権一四三〇万円、東興信用組合の被担保債権七八六万八〇六〇円合計二二一六万八〇六〇円の先順位担保権があつた。一方当時の本件不動産の評価額は四〇〇〇万円であつたから、右評価額より右先順位被担保債権額を控除した残余価値は一七八三万一九四〇円であつた。また買戻期限到来時における被控訴人の浜田に対する右譲渡担保の被担保債権は元本一五〇〇万円とこれに対する利息一五〇万円合計一六五〇万円であつた。前記残余価値と被控訴人の浜田に対する右被担保債権額とを比較すると、前者が僅かに一三三万一九四〇円上まわる程度であるから、通常不動産評価において生ずる誤差を考慮すると、両者はほぼ同等といえる。このように譲渡担保権者の債務者に対する清算金支払義務を生じない場合には、被控訴人の浜田に対する右被担保債権の弁済期限である前記買戻期限の到来と同時に目的物件である本件不動産の所有権は担保権者である被控訴人に確定的に帰属したと解すべきである。

(二) また被控訴人は本訴において本件不動産の所有権を確定的に取得していると主張し、さらに原告浜田外一名被告被控訴人間の千葉地方裁判所松戸支部昭和四八年(ワ)第二六三号所有権移転登記抹消登記手続等請求事件においても昭和五〇年一月二二日付準備書面において、本件不動産の所有権を確定的に取得した旨自ら主張しているのであつて、被控訴人は遅くとも昭和五〇年一月二二日までには譲渡担保権の実行により本件不動産の所有権を最終的に取得したものである。

2 本件不動産の価値から先順位の被担保債権額を差引いた残額の範囲内ということで被控訴人より浜田に対して貸付けがなされたものである以上、そのこと自体により浜田が右貸付金を返済せず被控訴人が譲渡担保権の実行により本件不動産の所有権を確定的に取得する場合には当然被控訴人は先順位の被担保債務を弁済すべき義務を負うというべきである。最高裁判所昭和五一年六月四日第二小法廷判決が、譲渡担保権者は目的不動産価額から先順位の被担保債権額を控除し、それに相応する価値を留保し清算金支払義務を負わないとすることは、譲渡担保債権者はその留保された不動産価額をもつて先順位担保権者の債権の弁済に充当すべきことを当然の前提としたものと解される もしそうでなく債務者もしくは譲渡担保権設定者は別途自己の負担において先順位担保権の債権を弁済すべきものとすれば譲渡担保権者の清算金支払義務の算定に当り先順位担保権の債権額を目的不動産価額から控除する意味がなくなるのである。右判決は譲渡担保権者、譲渡担保設定者間において譲渡担保権者が帰属清算、処分清算のいずれの換価方法がとられても換価時に先順位担保権が存在している場合、譲渡担保権者または第三者によつて取得される目的不動産は先順位担保権の負担を引受けることとなり、不動産価額の範囲内においてはこれにより債務者もしくは譲渡担保権設定者と譲渡担保権者間の清算は完了したものとする趣旨といわねばならない。したがつて、譲渡担保権者において先順位担保権の実行を免れるため、先順位担保権の債権を弁済したとしても、不動産価額の範囲内においては、その主たる債務者もしくは譲渡担保権設定者に対し求償権を取得する理由もない。譲渡担保権者が先順位担保権の付着している目的不動産を譲渡担保権の実行により取得しかつ先順位担保権者にその債権を弁済することによつて得るものは、目的不動産の金銭的価値のうち先順位担保権者が把握していた先順位担保権の被担保債権相当額の部分(譲渡担保権者の弁済額相当の部分)に限り、主たる債務者に対する求償権は発生しない、求償権を認める根拠が自己の出捐をもつて実質的に他人の債務を弁済した者に支出した費用の償還を得させようとする点にある以上、右は当然であつて、譲渡担保権者は、その担保権の実行として目的不動産を取得したとき、目的不動産の金銭的価値のうち先順位担保権者が把握している先順位被担保債権額に相当する部分については、譲渡担保権設定者に対し対価を支払うことなくその所有権を取得しているのであるから、求償権を発生させる根拠がないのである。

被控訴人は本件不動産の所有権を確定的に取得した時点において本件不動産上に存する先順位担保権の債権を負担した本件不動産を取得し、浜田と被控訴人間では本件不動産の評価額から先順位担保権者である千葉興銀と東興信用組合の根抵当権の債務ならびに被控訴人の浜田に対する債権を控除し残余を生ずるときは被控訴人は浜田に対して清算金の支払いによつて両者間で清算されるべく、被控訴人の千葉興銀に対する抵当債務の支払いは本件不動産が負担し、予め被控訴人に留保された評価額の範囲内での支払いであるから、この部分については被控訴人と浜田間では清算金の対象から控除され清算がなされたと同一に帰する。被控訴人の先順位担保権者に対する支払いによる出捐は本件不動産の評価額内で清算さるべきものであるからには、それによつて被控訴人の出捐は本件不動産の取得によつて充足されているから、先順位担保権の債務者である控訴人に対する求償権は発生する余地がないというべきである(仮に求償権があつても、本件不動産の確定的取得に伴う清算によつて消滅したといつてもよい。)。

二、仮に右が理由がないとしても、浜田と被控訴人との間には共同して本件不動産を転売し、その処分代金から本件融資金を返済すること、その場合に被控訴人が取得する利益分配金を一五〇万円とすること、前記買戻期限は一応定めるが、これには拘らず将来本件不動産が値上りしてから転売すること等の合意があつた。しかも被控訴人は本件不動産につき浜田から所有権移転登記を受ける際、本件不動産に前記二口の抵当債務が付着しており浜田から同人が右抵当債務の支払を同人において引受ける約定で本件不動産を株式会社東葉牧場(以下東葉牧場という。)より買受けた旨の説明を受けかつ本件不動産の価値から右二口の抵当債務金額を差引いた残額の範囲内で本件融資をしたのであるから、将来浜田から本件融資金の返済を受けず被控訴人が本件不動産の所有権を最終的に取得する場合には自己が浜田の地位を承継すべきことや本件不動産を将来転売したときには、その処分代金の中から前記二口の抵当債務も支払われる関係にあることを了知していたというべきである。だからこそ被控訴人は昭和四七年三月三日控訴人と千葉興銀を相手方として松戸簡易裁判所に申立した債務協定調停事件において控訴人の千葉興銀に対する債務を被控訴人が支払うので遅延損害金を減額して貰いたいとか本件不動産は五〇〇〇万円位で転売できるので今暫く債務の弁済を待つてもらいたい等要望したのである。さらに東葉牧場の代表取締役であつた矢口政男が昭和四六年から昭和四七年秋頃までの間に本件不動産の買手を二、三人紹介し売買価額まで合意に達したのにその都度被控訴人代表者は値段をつり上げて転売の話をこわした。また矢口は昭和四七年末頃にも本件不動産の買手を紹介し被控訴人と右買主との間で本件不動産を即金四五〇〇万円で売買する話が成立したのに、取引する当日になつて被控訴人代表者はまたもや売買価額を五〇〇〇万円につり上げて右契約を履行しなかつた。右転売が実現しておれば、被控訴人は前記二口の抵当債務金額を弁済したうえ、浜田に対する本件融資金の回収及び転売した場合受取る予定にしていた利益分配金一五〇万円を得ることができたのである。それにも拘らず被控訴人は土地ブームによる値上りを見込んでさらに大きな利益を得るため右転売を拒絶したのである。右転売拒絶の意思表示は他面からみれば被控訴人が一五〇〇万円の本件融資金の回収手段として前記譲渡担保の効果として当時少くとも四五〇〇万円の価値を有していた本件不動産の所有権を二口の抵当債務の引受をして最終的に取得する旨の意思表示をしたものと解すべきである。

したがつて被控訴人は浜田もしくは東葉牧場に対し右二口の抵当債務を弁済すべき義務を負つていたのである(被控訴人が本来東興信用組合に対して直接債務を負つていないのに拘らず支払協定書を取交して同組合に対し直接の債務を負つたことは、被控訴人が上記義務の履行として東興信用組合との間で債務の引受をしたのであり、被控訴人は千葉興銀との間でも千葉興銀の抵当債権の支払について支払時期、利息損害金等に関し種々交渉を重ねたが、被控訴人の希望する弁済条件に対し千葉興銀の同意を得ることができず、そのため被控訴人は東興信用組合の如き協定書の作成を得るに至らなかつたにすぎない。)。

以上によれば、被控訴人が後日たとえ自己の資金をもつて前記二口の抵当債務を弁済したとしても、信義則上もはや抵当債務者に対し求償権を行使しえないというべきであり、求償権の行使は権利の濫用であつて許されない。

三、以上が理由がないとしても、被控訴人はいわゆる物上保証の目的物件の第三取得者に該当するが、右第三取得者は物上保証人に類似する地位にあるというべきである。そうとすれば、第三取得者が抵当債権を弁済したときに求償権を取得するか否か、取得するとすればその範囲如何等の点については主たる債務者と当初の物上保証人との関係如何によつて決定されるというべきである。控訴人の千葉興銀に対する本件借受金債務は表面上控訴人が主たる債務者で東葉牧場が物上保証人となつているが、実質的には東葉牧場が主たる債務者であり、このことは被控訴人も浜田から本件不動産の所有権移転登記を受けた際知つていたのである。かかる場合には仮に表面上の物上保証人たる東葉牧場が担保権の実行によつて抵当物件の所有権を失つたりあるいは任意弁済したとしても、実質上自己の債務の弁済をしたにすぎず自己の出捐をもつて他人の債務を弁済したということはできず、表面上の主たる債務者控訴人に対して求償権を取得しえないというべきである。したがつて東葉牧場から浜田へ、浜田から被控訴人へ順次譲渡された本件にあつては被控訴人も東葉牧場の地位を踏襲すべく、被控訴人は実質上債務者でない控訴人に対して求償権を取得しえない。

被控訴代理人は次のとおり述べた。

一、本件不動産の第三取得者である被控訴人は本件不動産上の抵当権によつて千葉興銀から金員を借受けていた控訴人の債務を弁済したのである。被控訴人が民法第五〇〇条に基き控訴人に対して求償権を取得するのは法律上当然のことである。控訴人は被控訴人の本件不動産取得が譲渡担保契約に基くものであり、その取得価額は時価と大きな差額があり、清算金支払義務あることを前提として種々主張するが、右主張は真実に反する。百歩譲つて仮に被控訴人が浜田との関係において清算金支払義務が生じたとしても、控訴人に対してはなんら法的義務を生ずるものではない。

二、控訴人は被控訴人の求償を権利の濫用と主張するが、控訴人の債務を被控訴人が弁済した以上、控訴人に対して求償権を行使するのは全く正当な権利の行使であつて控訴人の右主張は理由がない。

三、控訴人の右三の主張は争う。千葉興銀に対する債務の実質上の債務者が東葉牧場であるか否かは控訴人と東葉牧場間の問題であつて、善意の第三者である被控訴人は登記簿上及び抵当権者との関係で債務者は控訴人となつており、その控訴人の債務を弁済したのである。債務者である控訴人に対し求償権を行使するのは当然である。

証拠<省略>。

理由

一被控訴人が浜田に一五〇〇万円を交付し本件不動産につき昭和四五年八月二六日、同月二一日売買を原因とする所有権移転登記を経たこと、当時本件不動産には千葉興銀を根抵当権者、関東飼料販売株式会社(以下関東飼料という。)を債務者とし、債権極度額を二四〇〇万円とする根抵当権が設定されていたことは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、東葉牧場は千葉興銀に対し融資の申込をしたが、東葉牧場は設立して日浅く現在取引がないという理由で拒絶されたため、昭和四三年七月頃その取引先の関東飼料に対し、関東飼料において千葉興銀から借受け該金員を東葉牧場において利用したい旨を依頼したこと、関東飼料は右の依頼を承諾して千葉興銀と昭和四三年七月四日銀行取引契約を結び同日千葉興銀より二〇〇〇万円を借受けてこれを東葉牧場に交付し、東葉牧場は千葉興銀の関東飼料に対する右貸金債権担保のため当時東葉牧場の所有であつた本件不動産につき同日千葉興銀のため極度額を二四〇〇万円とする根抵当権を設定し、本件不動産中山林については同月五日、建物については昭和四四年一月二七日その旨の登記を了したこと、右貸金の弁済は割賦の約定であつたところ、東葉牧場は関東飼料に対し右貸金の弁済はこれを東葉牧場においてなすべきことを認め、右割賦弁済約定にしたがつて千葉興銀に対し右貸金の弁済をしていたこと、東葉牧場はそのほか東興信用組合のため本件不動産に元本極度額を一〇〇〇万円とする根抵当権を設定し昭和四四年三月二五日その旨の登記をして同組合から融資を受けたこと、昭和四五年五月当時関東飼料の千葉興銀に対する残債務は約一五〇〇万円、東葉牧場の東興信用組合に対する残債務は約一〇〇〇万円であつたところ、東葉牧場は営業不振に陥つて牧場経営を諦め、本件不動産を浜田に代金一一〇〇万円にて売却するとともに、右各残務はいずれも浜田が東葉牧場に代つて各債権者に弁済すべき旨を浜田は東葉牧場に対し約したことが認められ、<証拠>中右認定に反する部分は信用できない。

そして<証拠>に上記の事実を考えあわせれば、次のように認められる。すなわち、浜田は昭和四五年八月二一日頃被控訴人より一五〇〇万円を弁済期を一応同年九月二一日と定め、弁済期に元金のほか一五〇万円を被控訴人に支払うことを約して借受け、本件不動産につき同月二六日被控訴人のため同月二一日売買を原因とする所有権移転登記をした。当時前記根抵当権の被担保債務は、浜田の弁済により千葉興銀については一四三〇万円、東興信用組合については七八六万八〇六〇円となつていたが、浜田は右のように被控訴人より一五〇〇万円を借受けるに当りこれらの債務が同人に支払責任のある債務であることの事情を被控訴人に説明し、被控訴人もこれらの債務の残額を確認して一五〇〇万円を浜田に貸付けたものであり、当時被控訴人はなんら負担のないものとした場合の本件不動産の価額を少くとも四〇〇〇万円と評価していたものである。右の事実によれば、<証拠>に「売買」「代金」「昭和四五年九月二一日限り買戻す」という記載があるけれども、右は売買名義を用いた担保の表現であり、浜田と被控訴人は本件土地を真実売買したものではなく、浜田は被控訴人より一五〇〇万円を借受け、その担保として本件不動産を売買名義をもつて被控訴人に提供した(譲渡担保権の設定)ものであり、被控訴人はなんら負担のないものとした場合の本件不動産の評価額から優先担保権の被担保債権額を控除した残額の範囲内において貸付金額を定めたことが明らかである。

二右のとおり被控訴人は浜田より本件不動産に譲渡担保権の設定を受けたものであるから、その際に被控訴人が千葉興銀に対する関東飼料の債務及び東興信用組合に対する東葉牧場の債務につき債務の引受ないし履行の引受をなすべきいわれなく、右各債務につき被控訴人が引受けて負担する旨ないしはその履行を引受ける旨の合意が当時被控訴人と浜田間に成立した事実を認むべき証拠もない。

三関東飼料が昭和四六年一〇月一日より千葉興銀に対する利息支払いを滞つたので、千葉興銀が被控訴人に対し元金一三四〇万円及びこれに対する昭和四六年一〇月一日以降の日歩四銭の割合による遅延損害金を支払わなければ、本件不動産に対する根抵当権の実行をする旨同年一二月二七日頃通知したこと、被控訴人が昭和四八年三月二三日千葉興銀に対し右元金一三四〇万円及びこれに対する昭和四六年一〇月一日より同四八年三月二三日まで年八分八厘の割合による遅延損害金一七四万四五六九円合計一五一四万四五六九円を弁済したことは当事者間に争いがない。

四被控訴人は「被控訴人は控訴人の千葉興銀に対する債務を弁済したのであるから、民法第五〇〇条に基き当然控訴人に対し求償権を取得する。」と主張する。

民法第五〇〇条は弁済者が債務者に対して求償権を取得することを前提として、この求償権の効力を確保するために、債権者がその債権について有する担保権その他の権利が、この求償権の範囲において、弁済者に移転するものとしたものであつて、弁済者が債務者に対して求償権を取得するかどうか、また如何なる範囲で求償権を取得するかは同条の定めるところではなく、弁済者と債務者との関係によつて定まるのである。

先順位の担保権の設定されている不動産を目的とする譲渡担保においては、譲渡担保権者が把握できる目的不動産の金銭的価値は目的不動産の価値から先順位の担保権の被担保債権額を控除した残余価値であるから、譲渡担保権者が譲渡担保権を行使して目的不動産の所有権を確定的に取得する場合に支払うべき清算金の有無及び数額を算定するに当つては、まず目的不動産の価額から先順位の被担保債権額を控除した(数個の担保権が存するときはその順位にしたがつて)うえ、その残額と当該譲渡担保の債権額とを比較するのが相当である。したがつて譲渡担保権者は、譲渡担保権を行使して目的不動産の所有権を確定的に取得するに当り右のような控除がなされた以上、その後に先順位の被担保債権の弁済をしても、右債権の債務者に対してその償還を求めることはできないと解すべきことは当然である。けだし譲渡担保権者が右のような控除を得て目的不動産の所有権を確定的に取得した以上、譲渡担保権者は目的不動産上の先順位担保権の負担を引受くべきであつて、右弁済につき譲渡担保権者に債務者に対する求償権を認むべきいわれはないといわねばならないからである。また譲渡担保権者が未だ譲渡担保権を行使しない間において先順位の被担保債権を弁済した場合においても、譲渡担保権者は右弁済によつて、直接目的不動産につき、譲渡担保契約によつて把握し得た金銭的価値を超え、先順位の担保権によつて把握されていた金銭的価値を保留することになり、これはその後譲渡担保権者が譲渡担保権を行使して目的不動産の所有権を確定的に取得する場合にはその清算に当り上記控除の対象となり、また譲渡担保権者が譲渡担保権を行使して目的不動産を換価した場合には、売得金の清算に当り当該部分相当分は同じく控除の対象となるのである。一般に第三者が他人の債務を弁済した場合、債務者は法律上の原因なく第三者の損失において債務を免れるという利得を得るという不当利得関係を生ずるのであるが、右不当利得関係についてはとくに事務管理の制度が定められているので、右の場合通常第三者は事務管理費用として債務者に対し弁済金の償還を請求することができることになるのであるが、この請求権は右のような不当利得関係に基く不当利得返還請求権にほかならないのである。譲渡担保権者が未だ譲渡担保権を行使しない間において先順位の被担保債権を弁済した場合、譲渡担保権者は弁済のための出捐をすることは明らかであるけれども、上記のとおり右出捐には、直接目的不動産につき、譲渡担保契約によつて把握し得た金銭的価値を超え、先順位の担保権によつて把握されていた金銭的価値を保留し、これをその後譲渡担保権を行使した場合には、その清算に当り控除の対象となし得るという利益の取得を伴うのであるから、右出捐が直ちに譲渡担保権者の損失となつたということはできないのみならず、かかる場合に譲渡担保権者が弁済金の償還を債務者に対して請求できるとすると、たとえ債務者が右償還を譲渡担保権者にしたとしても、譲渡担保であるため譲渡担保権設定者は目的不動産につき右償還によつては直ちに金銭的価値をなんら回復できない(かえつて譲渡担保権者は譲渡担保契約の効果として目的不動産の金銭的価値を全面的に把握するにいたる。)という衡平を欠く結果をきたすのであるから、譲渡担保権者が未だ譲渡担保権を行使しない間において先順位の被担保債権を弁済した場合においても、譲渡担保権者は直ちに右被担保債権の債務者に対し弁済金の償還を請求することはできないと解すべきである。本件の場合前記認定事実によれば、本件不動産の価値は関東飼料の千葉興銀に対する債務額を優に超えているのであつて、被控訴人の右債務弁済当時被控訴人がすでに譲渡担保権を行使して本件不動産の所有権を確定的に取得していた場合は勿論のこと、未だ譲渡担保権を行使するに至つていなかつたとしても、被控訴人は直ちに関東飼料に対しても浜田に対しても弁済金の償還を請求することはできないというべきである。

五以上の次第であるから、関東飼料が昭和四八年七月二六日控訴人に合併され、控訴人が関東飼料の権利義務を承継したことは当事者間に争いがないが、その余の点にふれるまでもなく、被控訴人の請求は失当であつて棄却すべきであり、控訴人の請求は正当として認容すべきである。

六よつて右と見解を異にし、被控訴人の請求を一部認容し、控訴人の請求を棄却した原判決は民事訴訟法第三八六条によりこれを変更し、訴訟費用の負担につき同法第八九条第九六条を適用して主文のとおり判決する。

(岡松行雄 園田治 木村輝武)

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